冠詞、恐るべし

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私がイギリス留学をしていたときの話です。

イギリスのパブではキャッシュオンで注文するのですが、何人かで割り勘をするときは“turn”(順番)でまとめ買いすることがあります。

“It’s my turn.”とか

“It’s your turn.”

とか言って、順番に全員の飲み物を買いに行くことで割り勘が成立するのです。

私はあるときの飲み会で“my turn”がきたので、

「1パイントのラガー(ビール)とオレンジジュースを下さい」という意味で、

A pint of lager and orange juice, please.

と注文しました。

すると、そのカウンターにいたイギリス人たちが、ドッと笑ったのです。

私はなぜ彼らが笑っているのかまったくわかりませんでした。

皆さん、なぜ彼らが笑ったのかわかりますか?

(1パイントは日本の中ジョッキーぐらいの大きさで、ラガーは日本でも一般に飲まれているビールです)

そうです。冠詞に敏感な人なら「おやっ?」と気づきますよね。

“A pint of lager and orange juice, please.”は

「1パイントの/ラガーとオレンジジュース割り/を下さい」

となってしまうのです。

「1パイントのラガーと(1杯の)オレンジジュースを下さい」なら

A pint of lager and an orange juice, please.

A pint of lager and a glass of orange juice, please.

と言わなければならなかったのです。

当時のイギリス人はお酒の多様な飲み方をしていましたが、

さすがにラガービールとオレンジジュースは割らなかったようです。

冠詞、恐るべし。

さらにここで奥が深いのが言葉の句切りです。

後で英語ネイティブスピーカーに聞いたのですが、もし私が

A pint of lager / and orange juice, please.

と区切りを付けていたら、「おやっ?」とは思ってもそれほどの笑いは起こらなかったそうです。

私は“lager and orange juice”を一気に言ってしまったので、

完全に「ラガーとオレンジジュースは割り」なってしまったのでした。

冠詞と併せて、言葉の句切り〔文構造〕も英語においては非常に大切です。

by 各務 乙彦

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